1 試験問題
2021年に川崎市二次試験で出題された問題です。
帰りの会のあと、みんなの机を並べ直したり、黒板をきれいにふいたりしてから帰る児童がいます。このことについて指導してください。
場面指導設定としては、次のようになっています。
1人5分間
学級全体の児童生徒を指導する場面を設定
5人程度のグループ(教員と児童役に分かれる)
小学校5年生、もしくは中学校2年生を対象
児童・生徒役は質問や意見が可能
黒板やチョーク(白赤黃)、ホワイトボード(黒赤青)は使用可
今回は小学校5年生をベースに検討します。
2 分析
この場面を分析して、場面指導を行う段取りをつけます。
例えば、次のように考えられます。
A 児童は自然にそれらの行為を行なっている。
対象児童が複数の場合は自然な行為です。
机を並べたり、黒板をふいたりすること自体を「遊び」にしている場合です。
放課後の時間に、少しでも残って友達と話したいための口実にしている、などです。
ただし、一人で掃除をしている場合、一般的に考えると児童はすぐに帰りたいはずです。
友達と遊ぶ約束があったり、習い事があったりします。
そういった中で、わざわざ残って掃除を行うということは、何らかの不自然さを感じます。
先生が大好きで、その先生から褒めてもらいたいと考えている時などにはあり得ますが…
このように複数の場合、一人の場合、いずれかをまず考える必要があります。
B 児童が何かしらのトラブルを抱えている。
一人の場合、褒められる行為ではあるものの不自然な感じがあります。
そういった時に教員が考えていく必要があるのは、例えば次のようなことです。
友人関係に何かしらのトラブルがある
家庭環境に課題がある可能性がある
そういった背景があるかもしれないと考えた上で、今回オーダーされている「学級全体への指導」が求められます。
難易度としては高めの指導です。
学校現場では、個別対応事案です。
教員採用試験で考えると、こうした対応は避けた方がいい。
したがって、違う場面を考えていきます。
今回は「複数の児童が掃除をしている場面を想定する」ということです。
C 褒め方に工夫が求められる。
小学校5年生は思春期の入口です。
ただ闇雲に褒めれば、それを嬉しがる発達段階ではありません。
教員が褒めるという行動をした際に、逆効果になる場合もあります。
放課後、掃除をしていた児童が「目立ちたいからやった」と受け取られる。
他の児童が綺麗に片付けられておらず、少数だけ褒められ、後は叱られたと感じる。
このようになった場合は、せっかくの行動が指導によって悪化しかねません。
こうした分析を経て、実際にどのように児童とやりとりをするのかを考える必要があります。
D 指導は「説明」ではなく「対話」の形にする。
「このことについて指導してください」という文章から、受験生は実際に児童に話しかけるように実施することが求められています。教採コンシェルジュでもよくあるのですが、慣れていないとどうしても「一方的な説明」になりがちです。児童との「対話」がある形にすることが必要です。
3 場面指導プランの検討
まずは一文でまとめます。
このように考えておくことで、自身の指導の大枠を固めることができます。
今回は次のように行ないます。
全体指導で当該児童を承認する言葉がけを行い、加えて、学級全体の望ましい行動を増やすような指導をする。
児童の状況設定が何であれ、望ましい行動に対して承認をしていくことは必要です。
その上で展開を検討します。
4 場面指導の実際
□0-1.5分
教員「昨日の放課後、教室にやってきた校長先生からみんなのことを褒められたんですよ。何だと思いますか。」
すぐに手が挙がれば、指名をする。
挙がらない場合は、「近くの友だちと相談します」と声を掛ける。
【想定される回答】
勉強がよくできている。
机が揃っている。
挨拶がしっかりしている。
【板書】
クラスのすごいところ
勉強
机が揃う
あいさつ
白チョークで記載
教員「一つではありません。みんなが発表してくれた、これら、いくつものことで褒められました。」
□1.5-2.5分
教員「その中でも今日は掃除を取り上げます。この教室、いつもキレイだって校長先生が褒めてくれたんです。他にも〇〇先生や□□先生も同じことを言ってくれました。他のクラスも掃除は同じようにやっています。それなのに差が出る。どうしてだと思いますか。これも一つじゃないな、と先生は感じました。」
【板書】
掃除に黄色チョークで丸を付ける。
【想定される回答】
放課後にAさんとBさんが掃除をしている。
床に落ちているゴミを拾う人がいる。
帰りに椅子を机の下に入れている。
発表量が多いため、板書はしない。
その代わりに、発表に対して、柔らかな表情で褒め言葉を入れる。
「そうなんだよね」
「先生もそう思いました」
「よく気がついたね」
「高学年という感じがします」
「えらいよなぁ」
など。
□2.5-3.5分
教員「こういうことを、もっとよくしたいな、と思います。だって、すごいことですよ。たくさんのクラスがある中で、皆さんが特別に褒めてもらえる。皆さんだったら、この5年◯組が、よりよくなるためにどのようなことができそうですか。一つずつ考えてみましょう。」
教員「まずは2人。放課後にAさんとBさんが掃除をしているという話。これをもっとよくしようと思ったら、どんな方法がありますか。この2人ともすごいんだけど、もったいないなとも先生は思っているんですよ。それが分かると、今以上にこのクラスがよくなります。言えそうな人はいますか。」
【想定される回答】
もっと多くの人数でやった方がいい。
帰りの会で全員で机を揃えるといい。
□3.5-4.5分
教員「もちろんそういうのもいいですよね。学級活動などで話し合ってみましょう。でもね、先生、それだけでもないと思うんですよ。例えば、AさんとBさんが掃除してくれるのは、先生もみんなも嬉しくて、誰のためにもなっているけれど、放課後はさようならをしたらすぐに帰ることになっていますよね。楽しくって残ってしまっている気持ちはありませんか?」
※こうした話は、掃除の話ではないため恐らく発表では出てこない。まとめで出すことで、場面指導の方向性を最終的に確定させる。
【想定される回答】
ある。
ほんのちょっとある。
教員「楽しくするのはすごく大切。それと同時にルールも大切。だから、さっきみんなが話してくれた内容と合わせて、どうしたら楽しく、時間内でできるかを考えていきましょうね。」
教員「では、残りの時間で、どうしたらよりよくなるか。話し合いの続きをしましょう。」
□4.5-5分
予備時間
もちろん場面指導の一案です。
こうしたものを受験生の皆さん自身がカスタマイズして、ご自身だけの指導方法を検討してみるとよいかと思います。